蜘蛛(くも)の糸 芥川龍之介
ある日のことでございます お釈迦様は
極楽の蓮池のふちを 独りでぶらぶら
御歩きになっていらっしゃいました
池の中に咲いている蓮の花は みんな
玉のように真っ白で そのまん中にある
金色の蕊 からは 何とも云えない好い
匂が 絶間なくあたりへ溢れて居り
ます 極楽は丁度朝なのでござい
ましょう
やがてお釈迦様はその池のふちに
御佇みになって 水の面を蔽っている
蓮の葉の間から ふと下の容子を御
覧になりました
『蜘蛛の糸』は、質の高い文学を子どもたちに、との趣旨で鈴木三重吉が創刊した児童文芸雑誌『赤い鳥』の創刊号に掲載されました。
芥川にとってはじめての児童文学でした。
参考文献: 日本の名作
奉書紙: A4サイズ
29.7cm×21cm